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辻村深月氏の「スロウハイツ」クリエイターの不思議な世界観

      2016/04/02

     スロウハイツの神様

スロウハイツの神様

1ヶ月に10冊は最低でも読む僕が、お気に入りの1冊を紹介します。

スロウハイツの神様」です。

作者は、映画化された「ツナグ」の原作を執筆した辻村深月氏。

僕の2番目に好きな作家である。彼女は、登場人物の感情の機微を描くのが圧倒的に上手く、登場人物達の人間関係の変化にフォーカスをあてた作品が多いです。

「スロウハイツの神様」も、登場人物の人間関係の変化と成長を描いた作品。

登場人物は、小説、映画、漫画、絵などのコンテンツを生み出すクリエイターの人達です。この登場人物たちは、まだ、自分の創るコンテンツが世に認められていない、言わばクリエイターの卵のような人達。そのクリエイター達が、デビューするために、悩み、成長していく物語なんです。

誰かの心に残るようなコンテンツを創るためにはどうすればいいのか。作品にどんな思いを込めるのか。自分の作ったものは、相手に届くのか。「スロウハイツの神様」の世界観に入り込んでいけば入り込んでいく程、登場人物達に感情移入していってしまいます。

尊敬する仲間たちとの意見の食い違い、恋人とのすれ違い、出会いと別れ。過去のトラウマ。いろんなところにぶつかりながら、自分の伝えたいこと、貫きたいことをカタチにするため、登場人物たちは、作品を創る。

”モノを創る。”それって簡単なことではない、と改めて気づかされる1冊です。

魅力的な登場人物たちが、悩みながらぶつかりながら成長していく。小説のいろんな所に伏線が散りばめられていて、小説が終わるにつれて明らかになっていく様々な謎。「スロウハイツの神様」を読み始めれば、小説の世界観に引き込まれること間違いなしです。

是非読んでみてください。

スロウハイツの神様の感想

ここからは、ネタバレ要素を含んだ僕の感想。「スロウハイツの神様」を読んでみたい人は、読み飛ばし推奨。(ネタバレガンガン)

これはクリエイターの物語

それは、「 何かを世に送り出したい」だ。改めて自分の軸に気づくことができた。自分の創ったコンテンツを誰かに届けたい。自分の作ったものが少しでも相手に届けば嬉しい。「創ったものが、相手の価値観を変えるきっかけになる。」僕には、これほどステキなことは無いと思える。

多少なりクリエイター志向のある僕だから、この本の世界観にすぐに潜り込むことができた。反骨精神で頑張っている環。過去のトラウマ、自己陶酔で児童漫画を描く狩野。絵の才能はあるけど、営業ができないスー。映画に自分の感情をいれたくない正義。ハイパークールの黒木。そして、チヨダコーキ。その一人一人同じ目線で小説を読み進んでいく。

登場人物それぞれ、考え方や価値観は違う。創作活動への姿勢も違う。しかし、創作活動のモチベーションは登場人物全員持っていた。当たり前だ。自分を突き動かす「何か」があるから、人は頑張れるのだ。

では、読者である僕のモチベーションはなんだろう?私の価値観はなんだろう?「スロウハイツの神様」を読んで、それを考え直すいいきっかけになったと思います。

キーパーソンのチヨダコーキ

登場人物の一人である「チヨダコーキ」。彼は、人付き合いが少ない天才クリエイターとして作中で活躍します。数々のヒット作を出しながら、深い人間関係を築くのが苦手。

しかし、彼は観察力、洞察力がすごい。人の行動、発言からその人の気持ちを知ることができてしまうのです。作中では環の化粧がいつもよりちょっと濃いだけで、彼女が、彼氏と喧嘩してたのがわかってしまう。そして、チヨダコーキは環のことをそっとフォローする。

犬や猫などの動物は、自分の気持ちに正直です。嬉しかったら、嬉しい。悲しかったら、悲しい。生き物だし、当然の姿である。しかし人間は、自分の本心を隠す動物だ。嬉しくても、照れて嬉しくないふり。悲しくても、強がって悲しくないふり。それは、気遣いだったり、見栄だったり、人それぞれだろう。いずれの理由であれ、人間は自分の本心を隠したがる。

人のこのような習性がある中、チヨダコーキの「人の内心がわかるスキル」は生きていくために、必要不可欠な能力ではないでしょうか?自分の目の前の相手は、喜んでいるように見えるけど、もしかしたら悩み事があるもかもしれない。

終わりに

スロウハイツの神様には、こんなセリフがあります。作品的には、重要度の低いセリフだが、僕にはグサっと刺さりました。

「だけど、僕は映画やドラマに感情移入するほどに、残念ながらもう若くない」

今でこそ、本の世界観にすぐ潜り込める僕だけど、この登場人物のように、いつか本に感情移入できない日が来てしまうのか。名作やお気に入りの本を読んでも、何が思わない日が来るのか。

そんなのヤダな。

本や映画やアニメに心を動かせなくなることが、大人になることと言うのならば、僕は大人になりたくない。

いつでも、物語の世界観に飛び込み、そこで気づきや発見ができる人間でありたい。それが僕の思い描くカッコいい大人。

yosuke

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